白いしるし
私のお気に入りの作家さんである「西加奈子」さん。久しぶりにできたお気に入りの作家さんだ。
西加奈子さんの作品は毎回なぜか心引き込まれる。これがなぜなのかはまだわかっていない。熱量であったり、文章構成であったり、はたまた作品の主題なのか色々と心を奪われる要因はあるのだと思う。
これからもお気に入りの作家さんは増やしていきたいと思っているため、多くの作家さんの作品を読んでいきたいと思っている。またこのページに飛んできてくれた方で、おすすめしたい作家さんがいる場合は教えていただくと参考にしたいと思っている。
〜こんな人におすすめ〜
- 身を滅ぼしてしまうほどの愛を読みたい方
- 芸術の価値観に疑問を持っている方
この作品の最も印象に残るシーンは主人公の恋愛であろう。ダメだと分かっているがそれでも愛してしまうというジレンマに陥る主人公。
その恋愛模様は痛々しく、見るに耐えない人もいるかもしれない。しかし、この作品はドロドロした恋愛模様が見せたいわけではないように感じる。そこで生まれる悲しみや苦しみそして愛が最後の彼女の作品を作り出したように思えるからだ。
そして芸術に関する価値観の話もこの作品で語られる。その言葉に私は「なるほど」と思うほかなかった。
人によって多くの価値観が見られるため、価値を定めるというのはとても難しい事である。この作品ではその疑問にひとつの答えとなる言葉を示してくれていた。私はその言葉を見て納得するとともに少しホッとした。
そこには自己を認めてくれたような安心感がある言葉であった。是非気になる方は一読していただきたい。
〜作品の概要〜
○著者:西加奈子
○出版社:新潮社
○発売日:2013年6月23日
○ページ数:198ページ
〜大まかな概要〜
絵を描きバイトをしながら暮らしている独身の女性。彼女が主人公である。
ある日、仲の良い知人に「ある人の絵が君は好きなはず」と言われた。主人公は気になっていた。そのタイミングで、その、ある人の個展が開かれるから一緒にいかないかと誘われる。
そこで見た絵に主人公は感動し、そこでその絵の作者と出会う。この出会いが主人公の女性に大きな変化を与えた。
愛に溺れる彼女の行方は…
〜感想〜
この作品のここがすごい!
- 愛に溺れ、主人公の人生が壊れゆく様。そして彼女の愛の表現の仕方。
これほどにまで自身の身を滅ぼす程の愛を私は経験した事がない。また、これほどにまで人を、異性を好きになるという感情はどこから生まれているのだろう?という疑問が浮かぶほどだ。彼女は彼と出会った時から一目惚れのように恋に落ちていった。
主人公はこの人を好きになってはいけないとわかっている。それは彼と出会ってすぐに分かっていたことであった。しかし、その想いは止まらないのである。
そこから彼女に大きな変化が起きてくる。元々恋愛に対して深く深くのめり込んでしまうタイプである彼女は別れが来る度に体重の減少などの物理的な変化も生じてしまう程だ。彼女の愛は、ひとつひとつの濃度が濃い。
そして彼女の愛の表現が最後のシーンに綴られている。前に読んだ「ふくわらい/西加奈子」の最終シーンに似た読み心地であった。それは衝撃的だった。文体で読む上ではなにかその行動に格好良さまで感じるが、実際にその場面にあったとしたら、私は目を逸らし、見ていないふりをしていると思う。
それだけ衝撃的なシーンであった。
是非読んで確認してほしい!
考えさせられた事
- 私は結局、自分にとって都合のいい使徒の作品をよく思って、嫌な人の作品は、価値がないと思う、その程度の人間なんですよ。
これは、主人公と仲の良い友人の事を好いていた女性の言葉だ。彼女は「16」というギャラリーを経営しており、いわば芸術作品を売る側の人である。その人から発せられたこの言葉がとても印象に強く残った。
芸術の評価の仕方というものは、私にはない能力だ。また芸術といっても音楽や絵、文芸など、芸術という分野にも多くのものがある。
そんな事を思っている中この言葉が作品内に出てきた。どれだけ高価な芸術作品であっても興味のない人にはただの絵であったり、音楽であったりするのだ。
例えば世界で最も高額と推定されている「モナリザ」の絵。これが例えば日本円にして10万円で売っていたとした時、どれほどの人がモナリザに価値を見出し買おうと思うのだろうか?
ミーハーでなければきっと興味のない人は手を出さないであろう。
それほど人によって価値感が違うものなのだ。そんなものを評価するというのは一般人では不可能に近いのではないのではないだろうか。
そう思っているときにこの言葉と、それに対する絵描きである主人公の返答が何より印象に残り、深く頷かされた言葉となった。
〜最後に〜
この作品もとても面白く、そしてあっという間に読み終えた。
小説の世界なのか現実の世界なのかは分からないが、芸術に携わる人には何かしらの影や寂しさを感じる。共通点というほどのものでもないが、私の印象に残る人がそのような人が多いのかもしれない。
その中にある芸術家の多くの人間ドラマは、なかなか小説の世界でないと気軽には体験できない。このような体験が脳内でできる事を心の底から楽しく思える。これこそ読書の特権であると思う。