感想文

「すべての瞬間が君だった/ハ・テワン」を読んでの感想

すべての瞬間が君だった きらきら輝いていた僕たちの時間/ハ・テワン

 

愛するからこその幸福が生まれ、愛するからこそ憎しみが生まれる

 

〜はじめに〜

定期的に「愛」という事において考えたくなる時がある。それは人同士の恋愛に限らずではあるが、書店に行くといつも恋愛ものの小説を手にしてしまう。やはり、一番身近で想像がしやすく分かりやすい「愛」というものは、私にとっては恋愛なのだと思った。

この作品を手に取った理由としては、表紙の美しさや帯の気になるキャッチフレーズ、韓国の方が描く恋愛の書籍という部分にとても興味が湧いたため購入した。

 

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〜作品の概要〜

○作品名:すべての瞬間が君だった きらきら輝いていた僕たちの時間
○著者:ハ・テワン
○訳:呉 永雅
○出版社:マガジンハウス
○発売日:2020年5月28日
○ページ数:263ページ

※この作品は小説ではなく詩集である。私は小説と思って購入したが、詩集であるので購入する際は気をつけてほしい。

 

〜大まかな概要〜

すべての瞬間が君だったというタイトル。この作品はどのような作品か?というのは一番最初のプロローグに記載されている。下記はその中の印象的な言葉を引用したものだ。

「瞬間とは、その刹那に起こるさまざまな感情で成り立っている。」

「その中でも特に愛にまつわる瞬間は鮮明に記憶に残る。」

 

この作品は、ほとんどが恋愛にまつわる詩である。

 

〜目次〜

私はこの作品で初めて「」が書かれた作品を読み終えたかもしれない。あまり興味がなく、どう読めばいいのか分からなかった為である。

しかしこの作品には目次ごとに「流れ」もしくは「物語」があったように思える。そのため読み終えれたという部分もあったかもしれない。

  1. 心配事はしばし忘れて考えすぎて眠れぬ夜を過ごしているきみに
  2. 2人だけの季節が始まろうとしているこの瞬間、愛するきみに
  3. 疲れた1日の終わりに温かいねぎらいの言葉が必要なきみに
  4. さよなら、ぼくのすべての瞬間の人に、恋に傷ついたきみに

なにかこの目次だけでも感じる流れがあるのではないだろうか?恋愛の瞬間とは、決して幸福ばかりではないのだ。そんな部分もこの作品には表現されている。

 

〜こんな人におすすめ!〜

  • 学生時代の甘酸っぱい思い出を振り返りたい人
  • 高校生で恋愛中の人
  • 気持ちに正直になりたい人

この作品を読んだ方はきっとこう思うだろう。あまりにも幼すぎる恋愛だと。

特に年齢を重ねられた方はそう思う人が多いと思う。それだけこの作品は青々しく痛々しさがある。そのため、もしかしたら「見てられない」という意見もあるかもしれない。実際にこの作品のレビューを見たところ、そのようなコメントもされているところを見つけた。

しかし、「他人を見ているという視点」という第三者視点から「過去の自分という視点」にしてみるとまた感じ方が変わってくる。多くの人がなんであんな事を、あの時は平然と言えていたのだろう?と疑問に思う事が多々あるのではないだろうか?

恋愛が題材となった書籍は特に第三者視点でみてしまうと、どうしても冷めた視線で見てしまうように思う。過去や今の自分と重ね合わせ、まだ青かった自分を振り返りつつ読むことをおすすめする。

 

〜感想〜

 全体的な感想

あの時の、相手の一言一言に一喜一憂した日々が思い出され、懐かしむ気持ちと少しの恥ずかしさが込み上げてきた作品であった。

彼女といる時の幸福感、永遠とできた彼女との電話、彼女の事が好きという事から来る不安感、想いの強さの天秤、別れの際の虚無感、など多くの事が思い起こされた。この時の恋愛というのは本当にこの作品名通り、「すべての瞬間が君だった」なのだ。そしてそれが過去となった時その時の思い出は、幸福だったと輝いていた時間だったと記憶に残ってゆく。

そんな昔の感情に浸った作品であった。

 この作品のここがすごい!

本来隠すであろうストレートな感情が全面にでている

 

この感想を挙げる前、少しAmazonなどのレビューを見ていた。その中に多く書かれていた言葉として「優しい」があった。しかしこれには少し同意しかねた。

確かに最初から中盤くらいまでは、とても幸せそうででお互いがお互いを考え幸せを作り上げているというカップル像が頭に浮かんだ。言葉選びも優しくとても温かい詩集だなと感じていた。しかし、後半は別れをトリガーとして、すべての負の感情を全面に出している詩集であったように思える。

この幸せ~憎しみへのグラデーションは驚くほどの変化量であった。この作品は優しいや切ないというより、恋愛における人間の本質が赤裸々に書かれている詩集に私は思った。ここまで幸せな時は幸せな感情、別れたことにより生まれた怒りや憎しみの感情が表に出てくる作品をまだ私は読んだ事がなかった。怒っている時は怒っている。憎んでいる時は憎んでいると素直な詩が多かったのだ。

 印象に残ったシーン

第2章が私の中でとても印象的だった。1章目はネガティブな感情を持っている人に対して、「大丈夫だよ」と後ろから抱き寄せてくれるような、暖かく優しい詩が多く書かれていた。またその中で、「かわいい」「愛おしい」「愛らしい」などの言葉が多く使われていた。

そう思いつつ第2章に移行し、読み進めていくと急にイアママで彼女との詩が多かった文章に友達とのやりとりが出てくるのだ。今までは彼女であったり、自分自身に対する詩がほとんどであったため、何か違和感を感じた。そこでは”旅行に行きたい”と友人と話していたり、最近の口癖が旅であったりと、最初の恋愛の幸福を感じている瞬間の文章とその瞬間の文章では何か雰囲気が変わるのだ。これが、今までの流れであれば”彼女”と旅行に行きたいと話す流れの方が自然だからだと思う。

ここでは率直に「別れ」という言葉が私の脳裏に浮かんだ瞬間であった。そのため、私はこの第2章がとても印象的な部分であった。

 考えさせられた事

恋愛において幸せと憎しみは表裏一体の関係にある

第4章では幸せが憎しみへと変わる様が表現されていたように思えた。

私自身ここに表現されていた別れに対する憎しみという部分が大きな恋愛をした事がない為想像がしずらい部分であった。

しかし、ここで分かるのはやはり愛は相手へ送った分、人はリターンを欲するものなのだと再認識した。これは当たり前の感情なのだと思う。反応がないというのは一番辛いものだ。

だからこそ皆恋愛に対して一歩引いている部分があると思う。

昔友人に言われた言葉で

「先に本気になった方が負け」

という言葉があった。とても残念で残酷な言葉ではあるが、間違っているとも言い難い言葉である。

〜最後に〜

私は詩集を読んでこなかった為、他の作品と対比できないのは残念だ。正直な話詩集はどう楽しめばいいか分からなかったのである。しかし、今回の「すべての瞬間が君だった」という作品を読んで詩に記されていないバックグラウンドを考えることがとても楽しかった。

この詩はどのような時間帯でどんな場所で書かれたのだろうや、この流れでこの詩がくる事にはどんな関係があるのだろうという余白の部分がとても気になるのである。1つのいい機会となり学びとなった。