感想文

deepな街の人間ドラマ「下北沢/藤谷治」を読んでの感想

下北沢

単行本版

文庫本版

 

〜はじめに〜

タイトルに惹かれ近くの図書館で借りてきたこの作品。東京に来て何度か訪れた街「下北沢」。

宮崎出身の私には「音楽」の印象が強い街であった。なぜそのような印象がついているのかは分からないが、興味があったため何度か訪れたのだ。

この作品はフィクションであるがとてもリアル感のある人間ドラマが描かれる。そして私の想像していた下北沢はこの作品内にあった。

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〜こんな人におすすめ〜

  •  下北沢の雰囲気感じる人間ドラマを見たい方へ
  •  下北沢という街が好きな人へ

この作品には私がイメージしていた下北沢が綴られていた。ミュージシャンや小説、詩人に絵描きなどが集まり、成功を目指しているもの、過去の栄光に縋っているもの、そんな人々が好きな人など夢と絶望に溢れているような、そんな世界観の作品だ。

そんな中で生まれる人間ドラマはdeepで下北沢でないと経験できないような雰囲気だ。

そして下北沢が好きな方には馴染み深い路線名や通り名がこの作品にて出てくるのではないだろうか。そんな部分も楽しめる作品となっている。

〜作品の概要〜

作品名:下北沢
著者:藤谷治
出版社:リトルモア
発売日:2006年6月30日
ページ数:152ページ

〜著者について〜

藤谷 治(ふじたに おさむ、1963年11月23日 – )は、日本の小説家。東京都出身。

経歴
日本大学藝術学部映画学科卒業。会社員を経て、1998年に東京・下北沢に本のセレクト・ショップ「フィクショネス」をオープン。書店経営のかたわら創作を続け、2003年に『アンダンテ・モッツァレラ・チーズ』(小学館)で作家デビュー。2013年11月にデビュー10周年を迎え、同年12月には代表作である青春音楽小説『船に乗れ!』が舞台化される。

〜大まかな概要〜

下北沢でレンタルボックスを経営している主人公。この主人公とその周囲の人々で物語は進んでゆく。

小説家や元アイドルタレント、詩人に画家という濃ゆいキャラクターが多々登場し、この話を構成してゆく。

最も大きな出会いは詩人と、主人公が経営するお店の常連客の女性であろう。

ワクワクと切なさが入り混じる作品だ。

 〜感想〜

 この作品のここがすごい!

  •  ノンフィクションのようなリアルさがある

この作品実際の下北沢の地名や、線名が出てくるため読んでいてこの作品はノンフィクション作品なのではないかと思っていた。

最後に「この作品はフィクションです」と書かれている言葉を見るまではそう思っていた。それほど妙なリアル感のある作品だ。

 印象に残った言葉

ものごとはすべて、うまくいくとは限らない。しかし、うまくいかないとも限らない。今日得るものがなかったとしても、かつて得るものがあった日が、必ずどこかにあった。そんな日が、明日また訪れるかもしれない。

とても希望を持って過ごしている。そんな言葉だ。私の下北沢に対するイメージは、まさにこのようなイメージであった

私は音楽に特化している街だという印象を強く持っていたが、この作品内では多くの芸術家が登場人物として登場する。そんな中だからこそ、この言葉は生まれたのだろう。

芸術や芸能においては特に未来の観測がとても難しい分野であると思う。その上でこのような言葉は夢への希望を抱かせてくれるのではないだろうか。

いくつになっても夢を持ちそれに向けて努力している人を私はかっこいいと思う。新たなチャレンジをしたり、自分に課したノルマををクリアしていったりなどの努力。

しかしその全てが、その人の目標へまっすぐと歩みを進めてくれる結果とならないことも多々ある。

そのような現実に身を置いている人であれば特に刺さる言葉なのではないかと思う。

 考えさせられた事

大まかな概要にて「ワクワクと切なさが入り混じる作品」と表現した。

多くの夢や目標を持った街である反面、夢に溺れ依存している人や過去の栄光に縋っている人など、そのような人も集まる街だ。

そこには、芸術家との会話という興奮があると同時に、夢に溺れていった人の切なさ、儚さという部分がこの小説には綴られている。

ここで考えさせられたことは「夢」についてだ。

「夢」という言葉は小学生から馴染みがあった。小学生の頃に将来の夢を書かされたからだ。この夢という言葉はある時は良いものとして、ある時は悪いものとして世間から見られる。

悪いものとして認識されている時の「夢」に対しての言葉は「現実を見ろ」だ。
反対に「夢」を肯定される人は成功をすでに一度でも収めている人にフォーカスが向くように思える。

この2つの違いには生活の基盤が出来ているかという部分にあるように思える。そして最も大きな違いとして、前者は「夢の世界」の話という周囲の認識であるのに対し、後者は「目標」として周囲の人には認識されているように思える。

どれだけ将来のビジョンを持っているかということであろう。そのビジョンが応援してくれている時に見えないと、ただ好きなことをやっている人という印象になるのであろう。

それもひとつの道であると思うが、周囲の人からは応援しづらいかもしれない。何をどう応援すれば良いのか分からないからだ。

この作品で私自身はそのようなことを考えさせられていた。ひとつ私なりの答えが見つかりよかったと思う。

〜最後に〜

思った以上に面白い作品であった。

amazonレビューを見ると「内容がない」「だから何?」という言葉が書かれていた。

だが、現実の世界はそのようなことばかりだ。だからこそ私はこの作品にリアルを感じたのだと思った。

読む前は下北沢を紹介する小説家かな?と思っていたが、その内容は全く違った。とても濃ゆい人間ドラマが綴られた作品であった。読む前の期待を上回ってくる作品を見つけるのも、読書のひとつの楽しみであると思う。

この作品は予想を上回り楽しめた作品であった。

物語として面白いため、ドラマ好きな人なども楽しんで読めるのではないと思う。

是非気になった方はチェックしてみてほしい。