舞台
1ヶ月に1冊は欲してしまう西加奈子さんの作品。そもそも西加奈子さんは友人に勧められた作家さんだった。
そんなきっかけから、読み始めた作家さんだったが、あまりにもこの方の文章や主人公像が私に突き刺さる。初めて読んだ作品は「 i 」だったが、女性向けの作家さんなのかなと思っていた。主人公が女性であり、とても女性の悩みや大きな選択について考えさせられることの多い内容であろうと思ったからだ。しかしながらこの「 i 」にも私は考えさせられる事が多くあった。
だからこそ今お気に入りの作家さんとなっているのだと思う。
今回は「舞台」という物語を紹介していこうと思う。
〜こんな人におすすめ〜
- 世の中息苦しいと思っている人へ
まさに主人公がそう思って過ごしているこの作品であれば、このように思っている人は共感,そして考えさせられる事も多い作品だろう。
なぜ彼が息苦しいと思っているのか。その理由が現代の人たちにとっても繋がる部分が大いにあるだろう。そんな人にとっても彼がどのようにこの物語を終えていくのか見届ける事で、何かその苦しさを取っ払う機会になるかもしれない。
〜作品の概要〜
○著者:西加奈子
○出版社:講談社
○発売日:2014年1月10日
○ページ数:194ページ
〜大まかな概要〜
アメリカに旅行できている小説好きの主人公。アメリカに着き憧れの場所で彼は舞い上がっていた。そこで「スリ」にあい、彼はパスポートを失くし、お金を失くし、携帯までもなくす。そんな大きな出来事があるなかでも彼は慌てない。犯人さえも追わないのだ。
しかし、日が経つごとに追い込まれる主人公。そこで過去を振り返りつつ変化が少しづつ起こってくる。そんな物語だ。
また彼の学生時代の性格は、皆の前で適度にふざけ、好意的な笑を頂戴する存在であった。
更におじいちゃんが亡くなった際の葬儀にて母につられ、涙を流し、その涙は多くの人に伝染していった。そこで彼は演じる快感を初めて体験した男の子であった。
この「演じる」という言葉がキーワードであるこの作品。彼はどのようにこれまでの歩みを演じてきたのか、そしてこの主人公に共感する人もいると私は思っている。
〜感想〜
この作品のここがすごい!
- 自分の理想を徹底して演じる主人公の苦しみ
この物語の主人公は人から見てこうありたいというプライドと理想のため、人生を演じている。しかし、その演じるという事には、本来の自分と違う部分を補わなければならない。そこに苦しみが伴うのだ。
また人から見てこうありたいという想いは、人から常に注目されているという考えが頭の中にある前提である。そんな部分が「舞台」というタイトルに繋がっているのかなと思いながら読んでいた。
舞台上にいれば、人から注目されるのも当たり前であり、何かしらの役があるのであれば、それを演じるという事が当たり前である。
この主人公はこれまでの人生「舞台」の上に、常に立っているかのように生きてきていた。そして気付くのは今の自分の理想を誰に対して見せているのかという部分である。この作品での主人公はそこに気付く。
そこに気付くまで彼はできるだけ感情を殺し、自分を客観視しみっともないと思う行動を控え、言葉の表出さえ計算で表出するといった徹底ぶりで彼は自分で多くの縛りを設けていた形となっていた。
〜最後に〜
西加奈子さん作品を読み始めこの作品で6作品目となった。
どの作品を読んでも本当に毎度考えさせられる事がある。そして主人公に共感してしまう。どの作品においても少なからず、そこに自分がいるのだ。その中でも西加奈子さんが綴る主人公には私が共感してしまう部分が多々あるのだろうとこの作品を読み終えて思った。
今までは漠然と西加奈子さんの作品は私の心を打つ作品が多いと思っていた。この作品を読み終えた上で、少しだけその理由がわかった。
やはり、私の中でお気に入りの作家さんなのである。