泣き方をわすれていた
〜はじめに〜
自然に満ちた表紙。緑が何か安心感や癒しを与えてくれるような気がする。そんな表紙と作品名に惹きつけられ読み始めた。
〜大まかなあらすじ〜
これは帯の通りである。
7年に渡る母親の介護、愛する人との別れ、その先に広がる自由とは…
冬子、72歳の物語。
〜感想〜
表紙の様にとても温かい小説だった。
1人の女性が母親の介護。言葉で聞いたり、想像するよりも遥かに大変で億劫であると思う。認知症というものは考えてみるととても残酷なものだ。
人がこれまで大事にしてきた思い出や過去を本人の意思関係なく消して行くのだ。
重度になると生き方の術も忘れ、排尿・排便の意をどうすれば良いか分からなくなる。赤子に戻ってしまうかの様だ。
†
この内容をとてもプラスに考えると、生まれ変わる準備をしている様にも思える。
生まれ変わりという言葉も人が想像で作った言葉なのかもしれないが、思考をプラスに考えるにはとても都合の良い言葉だ。
†
†
この作品でとても印象的な言葉に
人生は一冊の本である
から始まり、
長編と思えた人生という本は実際には驚くほど短編だったということ。
で終わるこの言葉。
†
72歳という年齢で驚くほど短編だったと思わされる人生。私はまだ半分にも達していない年数を生きても、そう思わされる人生を考えると長編に、もししようとするのであれば、どれほどの年月と濃い人生を送らないといけないのだろうかと考えさせられた。
†
†
「泣きかたを忘れていた」
もし自分が涙を長い間封印し、それが解放された時、どのような反応を示すのだろうか?
これも帯に書かれていた内容だがこの作品の主人公は、
もう暫く泣いていよう。わたしはそう決めて涙の感触を楽しんだ。
とある。
まだまだ封印が足りない様だ。
〜最後に〜
介護の内容だけでなく、母親が亡くなった後の主人公の気持ちやその後が描かれており、とても綺麗に完結した作品に思えました。
改めて介護を考える機会もあり、読み応えのある作品でした。